早稲田教育評論 第36号第1号
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(CAS)」とのつながりを記載している。授業中に使用する教材を記載している。授業を進めるにあたり、うまくいった点やそうではなかった点を記述し、改善点等を記載している。国際バカロレアプログラムにおける批判的思考指導モデルの検討 ─教育学諸理論の関係性と教師の語りに着目して─表5.ユニットプランナーの配列と内容ユニットプランナーでは、目標設定に次ぐ項目として、どのような概念を探究させたいのかを記述し、どのような問いを通して学習を深めさせたいのかが記述されており(項目2)、エリクソンが提唱する概念型学習により、批判的思考を育成しようと試みていることが確認できる。そして、目標、評価、指導法、振り返りといった順に項目が配列されており、ウィギンズ・マクタイが提唱する逆向き設計の考えが組み込まれていることが確認できる。では、授業内における指導アプローチとして、どのような批判的思考の方略がなされているのだろうか。一方、対話や議論によって、批判的思考を深めようとする学習理論は表4からは確認できない。加えて、国際バカロレア機構が発行する各文書には、対話や議論により批判的思考を深める項 目1目標設定単元の目標を記載している。学習者の知識・技能及び概念理解をどのように転移又は応用させるのかを記述している。単元で学習させる内容や身に付けさせたい技能、単元を通底する概念を記述している。また、探究のための問いを内容、技能、概念別に記載している。2探究を基盤とした指導3指導法の種類講義型、ソクラテス式の問答、グループによるプレゼンテーション等といった指導の方法を明記している。また、1単位時間毎の学習内容について、授業はじめから終わりまで、生徒が何をするのかを記述している。単元で実施する形成的評価を記載している。学習者のアイデンティ確立への寄与、学習者がもつ既存の知識を活かしながら、学習の足場架けを行ったり、学びを拡張したりする手段を記載している。思考スキル、社会的スキル、コミュニケーションスキル、自己管理スキル、リサーチスキルといった技能のうち、どれを深めるのか記載している。4形成的評価5個に応じた指導法6学習の方法7学際的な視点言語能力の向上や、DPのコア授業である「知の理論(TOK)」や「創造・活動・奉仕8資料9振り返り(筆者作成、下線は筆者による)7内 容IBプログラムの英語科目で使用されている教材を分析したYasuda(2021)は、教材の特徴として、ブルームらによる思考のタキソノミーに基づき学習内容が構成されているとし、全体の45.3%が高次思考に該当する学習活動であることを明らかにしている。高校1年生段階における数学の教材を分析した中和(2020)は、教材には「『事実確認のための問い』、『概念的問い』、『データに関する問いに対する生徒の答え』の3点が設定」(p. 56)され、学習者同士の議論が促されているといった指導上の特徴をあげ、「このように生徒間で観察・議論する内容は日本の教科書には見られなかった」(pp. 56-57)とし、学習指導要領上の数学科目との指導アプローチの違いを明らかにしている。このことから、IBプログラムにおける指導アプローチでは、問いを基盤としながら学習者同士による対話や議論が喚起されることで、批判的思考の育成を試みようとしていることが確認できる。

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